2024/6/17
静かな退職とは?特徴やデメリット、対処方法をわかりやすく紹介
静かな退職とは、仕事に情熱を持たず、必要最低限の業務だけをこなす働き方のことです。「退職」とはいいますが、実際に退職するのではなく、積極性は見せないで働き続けることを指します。近年、なぜ静かな退職が広まっているのか、静かな退職による企業側のデメリットや対処法について解説します。
静かな退職とは?
静かな退職とは、仕事への熱意を持たず、必要最低限の業務のみをこなす働き方のことです。実際に退職するわけではありませんが、仕事に対して積極性を見せないまま在籍し続けます。
静かな退職は仕事一筋ではない割り切った考え方の一つです。日本の雇用制度や仕組みによって消極的な働き方を余儀なくされているぶら下がり社員とは異なり、自ら消極的な働き方を選択しています。
静かな退職は、2022年にアメリカのキャリアコーチによって提唱された「Quiet Quitting」からその名前がつけられました。とりわけ若者の間で反響を呼び、話題になったのです。
静かな退職と混同しやすい「サイレント退職」とは?
「サイレント退職」という言葉を聞いたことはあるでしょうか。静かな退職と言葉は似ていますが、その意味は異なります。
サイレント退職は何の前触れもなく突然退職すること
サイレント退職とは、仕事を辞める前兆もなく退職することです。事前に相談もなく突然退職するため、周囲は驚くでしょう。本人は悩みやストレスを抱えていますが、周囲に相談できず、突然の退職に至るケースが多く見られます。自身より周囲を思いやる気持ちが強い「エミアブルタイプ」の人に多い傾向です。若手社員はもちろん、管理職層にも多く見られ、職場環境や人間関係の問題が背景にあることも少なくありません。
静かな退職とサイレント退職の違い
静かな退職 | サイレント退職 | |
---|---|---|
状態 | 仕事への過度な関与を控え、最低限の業務をこなす | 悩みや不満を打ち明けられず、抱え込んでしまう |
退職の有無 | 退職せず在籍し続ける | 突然退職する |
静かな退職とサイレント退職は言葉の響きが似ていますが、大きな違いは退職するかしないかです。静かな退職では、業務量が増えないよう仕事への過度な干渉は避けますが、退職せず在籍し続けます。一方でサイレント退職は、仕事に対する悩みや不満を抱え込みすぎて、突然の退職に至る現象です。
静かな退職が広まっている原因
静かな退職が増加している原因として、働き方の多様化が挙げられます。
働き方が多様化し、「仕事とプライベートの両方を充実させたい」「ワークライフバランスを重視したい」と考える人が増えました。アメリカでは労働者の半分以上が、仕事とプライベートの両方を充実させたいと考えているという報告もあります。
さらに、周りに理想となるロールモデルが存在しないことも原因の一つとして挙げられるでしょう。また、ロールモデルとなりそうな人がいたとしても、業務量に対して待遇が見合っていない場合もあります。昇進したらただ負担が増えるだけだと感じ、静かな退職を選ぶことも少なくありません。
日本でも株式会社マイナビの調査(※1)によれば、20~50代の正社員48.2%の正社員が「静かな退職をしている」と自覚しているようです。
出典:Gallup, Inc.「Is Quiet Quitting Real?」
(※1)株式会社マイナビ「正社員のワークライフ・インテグレーション調査2024年版(2023年実績)」
静かな退職を選ぶ人の特徴
20~50代の正社員のうち、プライベートの充実が仕事と関係していると考える人は70%にも及びます。静かな退職を選択する人がどのような考え方を持っているのか見ていきましょう。
【静かな退職をする人の考え方】
□出世欲がない
□今のままで満足している
□ストレスなく仕事を続けたいと思っている
□仕事とプライベートのバランスを保ちたい
□期待されたくない
静かな退職を選択する人は、ワークライフバランスを重視する傾向にあります。趣味を楽しむことや家族・友人と付き合う時間を、人生において高く位置づけている人も多いようです。
プライベートを充実させることが、仕事のモチベーションにもつながっていると考えている人も少なくありません。また、仕事において過度に期待されたくないという思いもあるようです。
静かな退職を選択するのは入社後が多い
出典:働きがいのある会社研究所「<調査レポート>「静かな退職」選択のきっかけは企業にあり、7割が「働き始めてから静かな退職を選択した」と回答」
働きがいのある会社研究所の調査によれば、静かな退職を実行している人のうち70%以上は、入社後に静かな退職という働き方を選びました。
職場でニーズが満たされていない、制度や仕組みが整っていないなどの不満が溜まったことから、静かな退職を選ぶに至ったようです。
20~30代半ばの若手社員に多い
出典:働きがいのある会社研究所「<調査レポート>「静かな退職」選択のきっかけは企業にあり、7割が「働き始めてから静かな退職を選択した」と回答」
同調査によれば、静かな退職を実行している人のうち、約30%が34歳以下です。これは、雇用形態や働き方の多様性が尊重されるようになってはきたものの、雇用制度や労働環境自体が変わっていないことに疑念を抱くようになってきたのが理由だと考えられます。
また、いわゆる働き盛りといわれる30代や40代で静かな退職を選択している人も多いです。仕事に対しては意欲を持てないものの、したいことをするためのお金を得るための手段として割り切っているのかもしれません。
静かな退職による企業側のデメリット
静かな退職は実際に退職するわけではないため、実行する人が増えたとしても企業側は人材不足になるわけではありません。しかし、デメリットがあるのも事実です。具体的にどのようなデメリットが生じるのか見ていきましょう。
職場の環境や人間関係の悪化
静かな退職によって、職場環境や人間関係にひずみが生じる可能性があるでしょう。静かな退職を選んだ人の「与えられた仕事だけをこなす」姿勢は、指示待ちの姿勢ともいえます。誰かが常に指示を与えなくてはいけなくなるため、周囲にとっては負担増です。
周囲の人は自分の仕事をこなしつつ、指示も与えなくてはいけなくなるため、ストレスを大きく抱えることになります。職場の雰囲気が悪化し、人間関係のトラブルや人材流出につながることもあるでしょう。
組織の生産性の低下
組織全体の生産性が落ちることも懸念されます。静かな退職を選択する人は、会議やミーティングでほとんど発言しません。仕事とは「やり過ごすもの」と認識しているため、必要以上に業務に関わることはしないのが基本姿勢です。
しかし、仕事は同じことの繰り返しで成り立っているものばかりではありません。発言が減ることで、生産性を向上させるイノベーションやアイデアは生まれにくくなってしまうでしょう。
若手の成長余地を失う
伸びしろのある優秀な人材であっても、その人材が静かな退職を選択すると、成長の機会は失われてしまいます。与えられた業務をこなすだけの人になってしまい、企業にとっても大きなダメージです。
また、新しいことを任せられる人材が減るため、人事配置が困難になります。意欲的に業務に取り組む人が特定の部署に固まらないよう、分散させる必要も生じるでしょう。
静かな退職の兆候
必要最低限の業務しかしなくなる
時間外など必要以上の仕事は断る
いつも定時退社をする
ミーティングや会議での発言がない
他のメンバーとのコミュニケーションがない
業務量に対して不満を口にしている
静かな退職を希望して就職する人もいますが、多くの場合、就職してから静かな退職を選択しています。静かな退職を選択するか早めに察知するためにも、上記のポイントに注目して従業員の様子を観察してみましょう。
なお、必ずしもやる気のない従業員が静かな退職を選択するのではありません。多忙さの反動で静かな退職を選択することもあるため、注意が必要です。
静かな退職への対処法
多様な働き方を導入する
人事の評価制度を見直す
エンゲージメントサーベイを定期的に実施する
ストレスチェックを実施する
静かな退職への対処法として、上記が挙げられます。
目まぐるしく変わる人々の価値観に対して、企業制度や仕組みは十分に対応しきれていません。ワークライフバランスを重視する流れはかねてより生まれていますが、企業の対応が行き届かず、従業員自らがワークライフバランスを考え、働き方を調整する必要があるでしょう。
従業員が意欲的に働き続けるためにも、企業は早急にエンゲージメントを高める仕組みづくりに取り組まなくてはいけません。どのような仕組みづくりが必要なのか、具体的に見ていきましょう。
多様な働き方を導入する
従業員のワークライフバランスを意識し、多様な働き方を実現できる雇用環境・制度を整備しましょう。たとえば、時差出勤やリモートワークの導入、育休の長期化などを検討できます。
仕事と生活の両方を充実させることで相乗効果が生まれる「ワークライフ・インテグレーション」の考え方を導入し、優秀な人材にとって魅力的な職場環境を構築することが大切です。
人事の評価制度を見直す
人事評価制度を適正に見直すことも大切です。人事評価制度が不公平感のあるものなら、人材は育たず、企業に対するエンゲージメントも向上しません。評価基準を可視化し、すべての従業員にとって納得感のあるものにしましょう。
静かな退職は20~30代の若手に多い傾向があるため、アンケートも活用して若い世代のニーズを反映させることも一つの方法です。
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企業が社員の成長を促す方法とは?組織づくりのポイントはこちら
エンゲージメントサーベイを定期的に実施する
エンゲージメントサーベイを実施し、会社と従業員の関係性を可視化しましょう。エンゲージメントサーベイとは、組織の現状を知るためにエンゲージメントを調査することです。エンゲージメントが低い従業員は、会社に貢献したいという意欲も低いと考えられます。
組織の課題を可視化して洗い出すと、人事施策の改善も可能です。定期的にエンゲージメントサーベイを実施することで、従業員の意欲の変化を把握しやすくなります。
▼ビジネス用語の解説はこちら
エンゲージメントサーベイとは
ストレスチェックを実施する
ストレスチェックを実施し、職場改善に取り組むのもよいでしょう。ストレスチェックとは、ストレスがどのような状態にあるのか簡単に調べる検査です。常時50人以上の従業員がいる企業には、ストレスチェックが義務付けられています。
特に新入社員は環境が大きく変化したことで、ストレスを受けていると考えられます。専門性が高い外部サービスを利用し、ストレスチェックの実施と職場改善に取り組んでいきましょう。
▼ビジネス用語の解説はこちら
ストレスチェック制度とは
詳しく知りたい方はこちら
ストレスチェック実施者の役割とは?選定基準はこちら
職場環境を改善し従業員のやる気を引き出そう
多様性の時代において、静かな退職を選択するのも一つの働き方といえます。しかし、静かな退職は企業の生産性を低下させ、競争力を失う原因にもなるため注意が必要です。
静かな退職を選択する従業員は、企業体制や風土に対して失望し、仕事への意欲を失った可能性があります。従業員のやる気を引き出す職場環境を構築し、将来ある企業へと成長していきましょう。
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